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ケーススタディ・1 間口が狭い土地

土地の形状は千差万別であり、その形状により利用効率は大きく異なります。長方形で間口と奥行きのバランスが良ければ効率的な土地利用が可能となりますが、三角地や袋地などの不整形の土地では、建物の配置が上手くいかないことや、そもそも建物の建築自体が不可能となるケースも考えられます。今回は、土地の形状により利用効率が阻害されるケースのうち、代表的な例として間口が狭い土地の評価について取りあげます。

普通住宅地域に〈図1〉のような土地があると仮定します。いわゆる袋地で、路地状敷地部分と有効宅地部分で構成され、間口が狭く旗竿状の形状が特徴です。道路には2m接道しているので建築基準法上は建物建築が可能ですが、このような形状の土地については、整形の標準的な土地に比べると一定の減価が生じることになります。この減価の判定にあたって、相続税算定のための財産評価基本通達による評価と、不動産鑑定士による評価では開差が生じる場合があります。

 相続1図1.JPG

 

Ⅰ 財産評価基本通達による評価
まず、相続税のための財産評価基本通達によると、〈図1〉の土地の補正率は次の通りとなります。
   不整形地補正率※1   間口狭小補正率※2
     0.88      ×    0.90       ≒ 0.79・・・A

 間口狭小補正率      奥行長大補正率※3
     0.90      ×    0.90       = 0.81・・・B

※1 普通住宅地500㎡未満でかげ地割合35%までの不整形地補正率
※2 普通住宅地で間口4m未満の間口狭小補正率
※3 普通住宅地で奥行/間口が8以上の奥行長大補正率

上記の二つの方法を適用して低い方を採用しますのでAの0.79となり、標準的な画地条件を前提とした土地に対して21%の減価率となります。
上記の方法は、数多くの相続案件を画一的に評価するために標準化された係数を用いた課税上の評価方法ですが、実際に不動産鑑定評価を行った場合には上記とは異なる結果も考えられます。

 

Ⅱ 不動産鑑定士による評価 
1 取引事例比較法における減価
鑑定評価手法のうち取引事例比較法では、類似性の高い多数の取引事例から対象土地の属する地域(近隣地域)の標準的な価格を求め、これに対象土地の形状や規模などの個別的要因を加味して比準価格を試算します。この個別的要因の比較にあたって、〈図1〉の土地では次の減価要因が挙げられます。
①間口狭小による減価
②奥行長大による減価
③形状(不整形)による減価
これらの減価要因を具体的に計算する方法としては、それぞれの減価要因の相乗積として求める方法(C)と、袋地として複合的に求める方法(D)が考えられます。
 間口狭小       奥行長大          不整形
 (1-0.2)   ×  (1-0.1)   ×  (1-0.15) ≒ 0.61・・・C

  有効宅地部分            路地状部分
 (270㎡×(1-0.3) + 24㎡×(1-0.7))÷294㎡ ≒ 0.67・・・D

上記で採用した各減価要因の減価率については、「土地価格比準表」(国土交通省 土地・水資源局 地価調査課 監修、地価調査研究会 編著)を参考に、実際の鑑定評価業務の中で一般的に用いられる数値としました。「土地価格比準表」は地価公示等において用いられる標準的な格差を示すものであり、取引事例比較法適用時に有力な参考となります。ただし、個別の不動産の特殊性や、不動産取引市場の環境によってはそれ以上の格差を考慮することが必要な場合もあります。この「土地価格比準表」によれば、上記で採用した格差よりも若干小さいものもありますが、不動産需給動向などを踏まえた現実的な見地から、上記程度の格差設定は妥当と考えられます。
上記の二つの方法によりC及びDが求められ、対象土地の減価率は標準的な画地条件を前提とした価格に対してCで39%、Dで33%といずれも財産評価基本通達による21%を大幅に上回ります。

 

2 条例による減価の可能性
さらに、この土地が東京都内に存すると仮定すると、別の減価要因も考えられます。東京都建築安全条例では、耐火建築物及び準耐火建築物以外の建築物で延べ面積が200㎡を超える場合には、敷地の路地状部分が20m以下でも路地状部分の幅員を3m以上と規定しています。つまり、路地状部分の幅員が2mしかない〈図1〉では、建物の構造によっては延べ面積が200㎡を超えられないことになり、仮に対象土地の基準容積率が100%(建築可能延べ面積は294㎡)だとしても200㎡までしか建築できず、94㎡分の容積率(約32%)を消化できないことになります。
これは対象土地の最有効使用を如何に判定するかにもよりますが、利用目的によっては容積率を消化できないことによる減価も考慮する必要があると考えられます。つまり、耐火建築物のマンションを想定した場合にはこの条例には抵触しませんが、木造のアパートを最有効使用と判定した場合には、この条例により建物の延べ面積が制限されることになり減価の要因となります。
他にも、同条例では路地状部分の幅員が4m未満である場合には3階建ての以上の建物(耐火建築物及び準耐火建築物では4階建て以上)の建築が許されない規定や、長屋の主要な出入口が幅員2m以上の敷地内通路に面することや建物が木造の場合の通路に面する戸数を3戸までとする制限など、建物の配置や構成に関する規定もあることから、土地上の建物の利用方法によっては減価が生じる可能性があります。

 

3 収益還元法における減価
また、鑑定評価手法のうち収益還元法(土地残余法)では、対象土地に最有効使用の建物の建築を想定し、この建物が生み出す賃貸収益のうち土地に帰属する部分を還元利回りで還元することで収益価格を試算します。この手法において、上記の通り基準容積率の一部が消化できない場合や、階数や建物の配置が制限される場合には、すべての容積率を消化できる利用効率に優れた画地形状の土地に比べて獲得できる収益が少なくなり、結果として収益価格は低く得られることになります。さらに、袋地に建つ共同住宅などは解放感が少なく、人気が低くなりがちなため収受できる賃料水準も低めになる場合もあり、還元利回りの査定にあたっても標準的な土地に比べリスクが加算される傾向にあります。そのため、場合によっては比準価格を下回る収益価格が得られることも考えられます。

 

上記では東京都の条例を挙げましたが、各自治体によって様々な建築制限を設けており、建物の規模、用途、構造などが画地条件によって大きく影響されることは珍しくありません。つまり〈図1〉のような特殊な画地条件をしていると、それだけで土地の利用可能性について選択肢が少なくなることになります。繁華性の高い商業地にありながら店舗を建築できないケースや、マンションが最有効使用の住宅地域にありながら共同住宅の建築が許されないケースなど、日常の鑑定評価業務の中でもこういった実例に出会う機会は枚挙に暇がありません。

 

Ⅲ まとめ
〈図1〉について財産評価基本通達による評価では減価率21%、不動産鑑定評価の考え方では減価率30%以上と得られました。また条例等の諸要因によっては、この開差はさらに広がることも確認しました。
私たち不動産鑑定士は、日常の不動産鑑定評価業務の中で多数の土地に係る取引事例を扱いますが、実際の市場では〈図1〉のような画地条件の土地については、標準的な画地から30%から50%程度減額された水準で取引されている事例も数多く見られ、地域によってはさらに減額された事例も少なくありません。ここで理解できることは、〈図1〉のような土地の価格は、その特殊な形状によってのみ決まるものではなく、地域の環境や行政的条件などの複数の要因が相互に影響しあって決まるということです。したがって、正確な土地の価格を得るには、より慎重で周到な価格査定プロセスを経ることが重要です。
もっとも、路線価は市場価格水準(地価公示価格)の80%程度とされているため、財産評価基本通達による査定を行った後の水準は、市場価格水準に対して相応に低めとなっている場合もあります。ただし、急激な地価変動を繰り返す昨今の不動産市場を考慮すれば、必ずしも地価公示の価格水準が市場の実態と一致しているものでもなく、実際には路線価並みあるいはそれ以下の水準が地域的な標準相場となっている場合も見受けられます。
上記で比較したとおり、財産評価基本通達による評価と不動産鑑定士による鑑定評価では、その結果に開差を生じることがあります。

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