「戸建住宅と環境」第7回は建築士の河合が担当します。
先回、磯部さんの書いた「三丁目の夕日」的1950~60年代の名古屋は私の原風景でもあ ります。私のうちは磯部さんとこよりはまあ都心で、密集歓楽地の中の、長屋の ような2階建て店舗併用住宅(古美術鑑定業!)でした。庭やクーラーはなかっ たです。暑さ寒さは相当なものでした。伊勢湾台風では強い風が土壁の隙間から 中を通り抜け、逆に倒れずに済みました。家の真裏が映画館とパチンコ店がずら りと並ぶアーケード街だったので、日がな、開演ベルと軍艦マーチが流れ込み、 表は目抜き通りで、路面電車や大型トラックが走る時すごい振動がありました。 受験勉強中は暴走族の騒音にも悩まされました(道が広いから大勢で行ったり来 たり好き放題するわけ)。今振り返ってみるとこんなアンチ環境対応型といって も良い住宅で御幼少期をお過ごしになった私が、今さら環境対応なんてきれいご と言ってていいのか!という思いもありますが、閑話休題(ソレハサテオキ、と 読んでね)。 小生は先月まで、国の緊急追加予算を受けて、住宅の性能向上リフォームの一般 向け冊子(耐震、バリアフリー、省エネの3編)をヒシこいて作っており、いか に現政府がリフォームに力を入れ、景気対策としたがっているか実感できました (私が実際に執筆・担当したのは省エネ以外の2編でしたが、現場を知るものと して、省エネへの意見をガンガン言わせてもらいました。でもエコポイントばっ かりにページを取られてちょっと癪)。大まかにいえば、住宅版エコポイントど んどん使ってチョという意図が強く、一般消費者向けにとにかく使わせるよう に、という書き方です。この冊子や説明DVDは御社に謹呈させてもらいましたか ら、皆さんも機会があったらぜひご覧頂いて、御高評ください(それとも河合 塾・環境系進学コースでもやりますか)。 エコポイントって、実はチェックの方法がないし、新築で最大30万円なんて大 したことありません。国も新築にはあまり期待していません。大体例の「長期優 良住宅」を年間20万戸づつ 20年間建て続けても400万戸にしかなりませんけど、 既存のストックは5000万戸ありますから、こっちが少しでも動いてくれれば、は るかにCO2削減効果も高いし、政治的にも大きな動きになります。エコポイント の軸足はリフォーム側にあるんです。リフォームは工事費自体が小さいので、 30万は新築に比べればウェイトが大きく、お得感が強いです。それにリフォー ムはいろいろな種類の補助金制度が多く、ほかの性能も合わせて工事すればダブ ル、トリプル捕りもできます(耐震補強や高齢者向け改修で各100万円以上補 助してくれる自治体さえある!)。だもんで、ここひと月でリフォーム業者の動 きは一気に激しくなりました。私のとこにはなかなか回ってこないけど… エコポイントの内容で、水口さんがそんな程度で良いの?と書かれていた点につ いて。実は、「窓の交換」と「床・屋根・壁の断熱」はそこらへんの省エネ家電 をつけるよりはるかに地球温暖化に対して重要かつ有効なんです。特に窓は、効 果に歴然とした差が出ます。詳しいことは省きますが、同じ金を使うなら、こう した建物本体側に使った方が、生活空間の性能はぐっと底上げされます。それか ら太陽光パネルやエネファームとかは先行している補助金制度があるので、エコ ポイントから外れているだけです。同時申請は当然できます。 省エネ家電はいわば新たなプラス価値を付加し、家の断熱はマイナス価値を減ら すといった感覚なんですが、このマイナス分は、慣れてしまっているだけで、実 はもともと相当大きかったわけです。したがって、我々造る側の人間は、こうい う作り方というか直し方は当たり前の話で、建物が本来持つべき基本中の基本性 能の底上げ、と思っていますので今さら、という気がしないでもありません。一 般の方は、目に見えない性能に金払う気はあまりないようで、どうしても家電と か車とか、コンパクトで目に見える楽しそうな「物」(建物よりは安い)のほう に流れてしまいますね。 でも建物は、いくらハウスメーカーが家電並みの気軽さを吹聴しても、耐久消費 財ではなく、やはりヘビーな重量物で「不動」産ですよ。固有の場所に固有の住 まい手が一定期間張りついて固有の状況下で使用するという条件は付いて回りま す。ただエコポイントなどの施策には、そういう実感が伴わず、指導や通達や施 策なども目標値だけに括って伝えられてしまうので、どうやって消化するかとい う議論しかできませんわね。マスコミもそういう大事な視点で伝えてくれないし。 エコポイントは期間限定の景気浮揚策としての役割以外に、25%削減に向けて 世論に摺り込む役割も当然担っています。1年やってみて少しづつでも動いたら 延長になるはずです。財政再建の折り、ポイントは増えませんが、パターンが増 える可能性はあります。また予算がなくなったら終わりといってこれまたあおり ますが、予想以上に消化が早かったら効果があるってことだから、追加延長にな るに決まってるじゃないすか。家電品や車も延長されたでしょ。 ところで、さっき書いた「目に見える化」という点は、山本さんも言及しておら れましたが、耐震性なども含めて、性能というものの認知・普及の大きなポイン トです。省エネに限って言うと、デジタル数値でCO2削減地や電力量を見せる装 置などがたくさん出回っていますが、私は簡単に数字への置き換えなどに頼らな いほうがよいと思っています。建築物に対しては、自分の体と五感で違いを実感 し、納得できなければ、方法として長続きしないから。それに建築設備の進化は 日進月歩なので、5年もたてば新しい機器、新しい基準、新しい表示法が必ず出 てきます。「最新のシステム」は今しか役に立たないとしたら、CO2の削減どこ ろか無駄使いのほうが多くなると思います。ここらへんも公平な目での報道が少 ないです。 たとえばエアコンを使わない生活の「快適さ」「多少暑くても自然な湿度の感 覚」とか、耐震性なら「命を失わず少しの補修で住み続けられる安心感」「避難 所ではなく自宅に住み続けられる安心感」などを実感として理解できる人は、 黙っていてもそこに金を出してくれます。私はそっちへの訴求法を考えたいとこ ろです。ほとんどの人は理解できない?新築の場合はそうかもしれませんが、リ フォームの場合は住み手のほうがその家の問題点をよく知っているし、そのうえ で「ここをこう直したい」と具体的な問題解決型の造り方になりますから、出来 ないはずないです。 それから先述の冊子に書いてもらいましたが、省エネはエアコンの使用を我慢す ることでは決してなく、一人ひとりにとっての「快適さ」を手に入れるための手 段なんです。結果としてCO2と光熱費の削減がついてくるという風に見られれ ば、環境対応への見方も実感を持ってできるのでは、と思うんですけどね。 費用対効果とか削減値の見方こそは、行政が内輪で考えるべきことで、一般消費 者は、それぞれが望む「快適」な生活、「静かで落ち着いた生活」を大事にす る、継続しやすくする、という本来的な視点を持ってほしいと私は思います。住 宅だけでなく、オフィスなどでも同様に考えることができれば、わざわざ金を出 して何でこうした環境対応法を施し、CASBEEランクを上げる必要があるのか、何 を皆望んでいるのか、など少しは見渡しやすくなるんじゃないでしょうか。
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