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環境インフラへの可能性-アンドロイドから人工地盤へ-

日本ヴァリュアーズ東京本社の河合です。

 

久々のブログで、しかも新人竹市君のあとというのは、山内の完投試合の次に投げる山本昌の心境です。ちょースローボールで勝負や!

 

 ここ2〜3ヶ月、私はあるゼネコンと協同して、新築建物の企画提案書やコンペ用のプレゼンシート作りを続けて行いました。全部実現、なんて甘い考えは持っておりませんが、一つも当らなければ、例のごとく台所事情が苦しくなるのが、設計稼業の常。せめて新しい試みとか別の案件で使えるアイデアのフィジビリティスタディをしておこうと思っています。

 

最近の案件では、ほとんど全てに、「環境配慮仕様」が設計条件として盛り込まれています。盛り込まれていなくても、提案には自発的に、かつてんこ盛りで含めておかないと、大手企業などとの総力戦では勝ち目がありません。何しろ向こうはフルスペックの最先端システムを「お安く」提供してくるのだから、中途半端なデザイン論ではクライアントの目をこっちに引きつける事はできません。

 

案件の一つに、「免震型・津波避難ビル」というのがありました。数社のゼネコンやメーカーからなる研究会で作ったプロトタイプを、設備面で内容を補強して実際の候補地に提案するというものです。実にキワ物的で、あまり気が進まなかったのですが、やってみると、単なる防災ビルにとどまらず、新しいビルディングタイプへ展開できる可能性が含まれていて、大いに考えさせられました。

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内容は、津波や洪水などの水災害を受けやすい地区の、中高層の拠点建物を対象に、地上3階程度までの低層部は(冠水の圧力を受ける面を減らすため)なるべく柱も減らして(もちろん太くなる)スカスカの用途にし、上部は免震装置を入れて、地震からの初期影響を低減させる、というシンプルな構成です。特徴は、

建物は現場打ちの鉄筋コンクリートではなく、プレストレスのPC材を用いる

設備は、電気と水の供給を被災後数日〜一週間程度は可能にしておくシステム

というものです。

①は、大スパンが造りやすくなるほか、躯体の耐久性と品質を上げられます。低層階の壁面は、津波時には、外れやすいパネルにして、水圧を必要以上に受けさせないようにします。 

②は、電気のメインが太陽光発電装置と蓄電装置(普段から何日か分は蓄電する)。

非常用の発電機は、現在の法規に従えば、設置義務のないケースもありますが、今後は、社会インフラとして必要不可欠になるでしょう。

これらの機器は全て屋上に救出ヘリ用のホバリングスペースと並べて置きます。普通の大規模建築だと地下の機械室も使うのでしょうが、この建物では、地階は当然ないし、あったとしても機械室を置けるはずがない。

ここはひとつのポイントです。津波は来なくても都心で冠水建物が増えている昨今、地下に機械室が置けなくなるのは設計する方から見ると大変です。地表面より上は、外気や外光の影響を受けるため、せめて屋内配置としたいところです。しかし、貴重な床を稼げない用途に使いたくはないので、どうしても外部に配置せざるを得ません。当然見栄えは良くない。震災後の電力危機への対応の流れから見て、既存設備のより高性能化が進む一方、おそらくより一層の細分化、分散化への開発が進むと予想できます。今まで設計の対象とならなかった、キュービクルや変電室でさえ建物本体に分散して組込まれて行くかもしれません。

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給排水設備の目玉は、雨水の浄水化装置です。これは良いですね。特に、ここ数年のゲリラ豪雨や豪雪など、天からの水は年々増えているように思いますから積極利用しない手はありません。雨水タンクについては、地下でも構いませんが、冠水しない高さに設けられた免震層内の置く事もできます。平時はもちろん一般上水を使いますが、断水時などにバルブを切り替えられるようになっています。常に半稼働状態にするため、平時でも点検を兼ねて定期的に切り替えて使用します。既存配管を使えるため、特別な配管敷設費はほとんどかかりませんが、上下の位置が変わるという事は、ポンプ(こいつが一番電気を食いよる!)が増えるという事で、設計者の頭を悩ます種になります。

 

設備系の目玉アイデアはもう一つ。冠水時でも上階だけで使用できるエレベーターシステムです。これも通常2基程度を最下階から最上階まで並べて設置するところを、1基増やして下層階用と上層階用とに分けるというもので、被災時でも1基は使用可能なシステムです。被災時あるいは被災直後に垂直な移動がしにくいと、高齢者や病人の多い建物では、致命傷になりかねません。建物全体に比べてエレベーターを1基増やす程度の費用は、行政でも補助できるんじゃないでしょうか。設置費用やスペース、免震クリアランスなどの問題はありますが、海浜部の超高層住宅など、上層階にある程度の規模がある建物では利用価値が高いシステムと思われます。

 

設備系の話が多くなりましたが、これらはいずれ建築本体と一体化されて行くという妄想を私は捨てる事ができません。特に外装面に、薄い電気設備や、着脱可能なエレベーターシャフトなどが模様のようにまとわりつくようになり、反対側が透けて見えるような開放的な下層階、機器設置から全くフリーになった屋上回りの形状・・・・・水槽類やダクトもさらに細分化、柔軟化して生物体の血管や瘤のようになって行くかもしれません。表面が薄いスキン素材でできるようになったらまさしく大きなアンドロイドです。防災というキーワードにより、ただの高性能「建物」が「アンドロイド」化する可能性が見えてきてしまうのですね。

 

私が新しいビルディングタイプとして展開力を感じたハードウェアがもうひとつあります。津波に耐える下層階のプラットフォームです。地盤上の敷地と同じ区画割りで戸建て住宅でも建てられるようにすれば、同じ場所での生活空間の再建ができますが、それだけでなく、単体の津波避難ビルをブリッジで渡っていけるようにしたり、最初から人工地盤として造れば、かなりの被害を抑えつつ、生活やコミュニティを分断せず、継続して行く事ができるのではないでしょうか。

 

人工地盤は、高度成長にさしかかる1960年代の、輝かしい建築アイデアの一つでした。実際、実現したケースもありましたが、その後広がる事はありませんでした。当時は、狭い国土の高度利用を目指し、環境への影響には目をつむったフシがあったからでしょう。特に地盤下のうっとうしさを解決していなかった事は、都市環境や景観を悪化させてしまう醜い見本になってしまいました。

 

大震災を経た現在、自然災害を防ぎ、かつ環境を保全する視点から、同じ方法が提唱可能という事は、人工地盤が単なる構築物ではなく、新しい「環境インフラ」そのものとして意識されるようになったのではないか、と私は考えます。

人工地盤ではないけれど、先日オープンした表参道の東急プラザの、屋上の「森」へ行ったとき、その可能性が可視化されたような感覚がありました。屋上緑化に毛の生えた程度ではない、環境としての「森」が実現できるところまで来ていると思いました。

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「環境インフラ」には、費用や新技術ももちろん必要ですが、最も重要な要素は、「スペース」だと思います。大きな河川敷を見てもわかるように、優れた防災対策は、同時に自然環境とも協調しています。

経済的な都合で、ぎりぎりの対策をぎりぎりの予算で行うようになってしまい、ちょっと想定を外れただけでも取り返しがつかない大災害が引き起こされる…。スペースに余裕がないから、少し容量をオーバーすれば、別のところで引き受けられないかとなる。そしてそこもスペースに余裕はない・・・・

 

ここで、不謹慎を承知で言えば、東北の海岸べりの被災地には、結果として、この願ってもない「スペース」群が生み出されたと思います。

この貴重なスペースを、風土に折り合わせた空間として、有効に(決して効率的という意味ではなく)使うためには、人工の森地盤?のような「環境インフラ」が、強力なツールの一つとしてイメージされてしまうのです。

 

表裏が、緑で覆い尽くされて構わないくらいのスペースの余裕が要りますし、部分改変、増減床も簡単かつしょっちゅうできなくてはいけません。問題は構築物の絶対的な強さの担保と建設費用です。後者はそれこそ公共工事、場合によっては証券化して民間資本で先行投資する方法も考えられます。(実際、古い学校の耐震補強工事をこういう方法でやろうとしている試みもあると聞きます。)また人工地盤面ごと免震化すれば、設備配管の問題も大部分が現状並みの費用に抑えられるなど、ソフト、ハード面ともやれる事はたくさん考えられます。

もし実現すれば、何百年後かにその姿は、遠くの山や海が織りなす景観の中に一体化し、埋もれてしまう・・・・

新たな構築物を作ることへの理由のない抵抗感は、常にどこにでも誰の心にもありますが、問題を少しでも減らし、かつ新たな風景の一部となり得る可能性があれば、考えてみる価値は大いにあるのではないでしょうか。

 

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今年の「ミラノサローネ」(ミラノで毎春開かれる世界最大級のデザイン見本市)では、ある日本メーカーのインスタレーションがグランプリに選ばれました。歴史的な建造物の中庭に、太陽光パネルを設置した枝葉を持つ樹木のような構造物を置き、回りの回廊につるされたLEDや有機ELの照明電源して歴史的空間を幻想的に輝かせるというものです。

 

大震災や原発事故後のエネルギーの考え方を空間コンセプトとして示したものですが、デザイナーは「生き物の原理にテクノロジーが近づいていく」「自然の営みに人工物を重ね合わせてゆく」ことが、これからの建築の一つの方向になるといっています。ここにも自然エネルギーの効果的な利用には、スペースとの折り合わせ方が不可欠と言うメッセージが含まれています。

 

自然災害をかわし、被災後の生活・空間維持のためには再生可能エネルギー志向である事(おのずとCO2削減タイプになる)、そのために必要な「スペース」を生み出す方法は実現できる手前まで来ている事などを、本日の仮説的妄想的結論としておきます。

 

は〜、疲れた。山本昌、最後息切れ。7回2失点ぐらいの出来?

(注なき写真は、全てアルコット建築設計事務所提供)

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