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住宅の性能向上リフォーム/作り手の心構え

東京本社顧問の河合です。 

私は、本業の設計業務も含め長年、建物のリフォーム、特に住宅リフォーム(対象は戸建てや共同住宅、賃貸物と分譲物、最近はシェアハウスなど多種多様です)に関わってきました。

今回は、その中で近年目立つキーワードとなっている「性能向上リフォーム」について、設計者としてのマル秘の?心構えを書きたいと思います。

 

住宅の性能と言ってもいろいろですが、環境対応でまず思い浮かぶのは「省エネルギー改修」あたりでしょう。しかしリフォームそのものが環境配慮行為ですし、また例えば耐震補強をどの程度やればLCCが下げられるのか、実際に大地震に遭遇したあと、どの程度直せば生活や仕事を継続できるのか、という事前比較や調整は施主の懐具合だけでなく、環境負荷を削減する大きな原動力になります。

 

ここでは、国や行政側の後押しも手厚い耐震補強・バリアフリー改修・省エネルギー改修の重要な三本柱に絞って話を進めます

なぜ重要か、それは住宅の基本性能であり、また逼迫した社会的要請であるからです。にもかかわらず、一般にはあまり意識されないため、国などが期待するほどには性能改修は進んでいません。なぜ意識されないか、それは「住む人や使う人の目に見えにくい」からです。目に見えにくいものには誰でもお金はかけにくい。施工側でも、性能向上リフォームはより専門的な知識が必要で、施工もはっきり言って煩雑なことが多いので、あえて避けてきた面もあります。

 

まずは性能向上リフォーム全般に望む際の2つの心構え。

 

1 要望がなくても組込む

この3性能は、新築であれリフォームであれ、現代の住宅には基本装備されて当たり前の性能です。もともと住宅リフォームは、最初に施主側から問題点の改修意欲があって始まります。この場合、間取りや仕上げ材の変更などがほとんどで、3つの性能については、施主自身の意識が弱く、強い要望として出てこないことが多い。だからといって無視して良い訳はありません。要望されるされないに関わらず、これらの性能はリフォーム後に確実に向上できるよう、作り手側が考えておくべきものです。それがプロの仕事です。

 

2 施主の視線で考える…性能向上自体は目標ではない

リフォームでは、施主の視線で考えることが特に重要です。新築では、さら地の状態から形を作っていきますが、大筋はほとんどプロ任せ。一方リフォームでは、施主の方が、問題の所在と重要さを認識していますから、リフォームにあたっては、まず施主の問題を解決していること、また得られるべき夢を実現してあげることが求められます。それができていなければ、「これは良いリフォームだ」とは言われません。技術者のまじめな信条だけで性能向上の目標数値などを押し通しても、実感されなければ「住んでいるのは私。あなたは何も分かっちゃいない」と言われてしまいます。施主の要望をまず受け入れた上で、リフォーム後に性能が少しでも向上していれば良し、とする位の見通しと柔軟さを持っていなければなりません。

 

次に技術面での心構えを2つ。これは教科書的なマニュアルなどにはほとんど書かれていませんが、現場で非常に迷う重要なポイントです。迷うがために曖昧な対応になり、いろいろな問題を生じさせる原因になってしまうのです。

 

1 部分的な性能向上でもOK

3つの性能は、本来、家全体一括でリフォームされることにより、合理的に効果が発揮されます。したがって新築の場合はあまり問題なく組込めます。しかしリフォームでは、既存部分を残す、あるいは既存部分に組込むという条件下にあるため、家全体でみると、性能不明部分を少なからず含んでいることになります。逆に言うとリフォームする部分だけしか性能をアップできないケースが多いという訳です。それでは意味がない?不明だから手をつけないほうが安全?答えはノー。部分的なリフォームであっても確実にリフォーム前より性能が向上する可能性があるのなら、積極的に組込みます。ただバリアフリー性能や省エネ性能は、施主の使い方によっても変わってくるので、向上させた部分はここだけ、とはっきり認識してもらうようにしています。

リフォーム箇所が限られるような耐震補強でも、全体の補強バランスに気をつけてさえいれば、相応に耐震性は向上します。もちろん性能に段階があることは施主に理解してもらわねばなりません。これは技術論ではなく、伝え方の問題。加えて施主をトレーニングするというやや傲慢な?戦略です。

新築並みの高性能化だけを目標にすると、予定以上の費用や時間がかかることもあります。施主の望む「良いリフォーム」と「単純な高性能」とは別物であることを常に意識しなければなりません。

 

「部分性能向上」という考え方は、無論本来は避けるべきです。が、大半のリフォームの現場ではこれに該当します。何を目的としたリフォームか、施主が何を望んでいるかを踏まえた上で、全体の高性能化を目指すのか、あるいは各性能の程良いバランスを取れば良いのか、その見極めが性能向上リフォームでは一番重要で、作り手に求められる最も大切なマネジメント部分なのです。

 

2 「中性能」でもOK、だが。

部分的で良いということは、新築的な高性能でなく「中性能」でも良いということです。

ただ「中性能」の考え方は、一旦高性能な作り方を知ってしまった技術者には、扱いが逆に難しくなります。たとえて言えば、多くの人は自転車に簡単に乗ることができますが、それができなかった状態には戻すことができません。どうしたって体がバランスをとって動いてしまいます。同様なことを現場技術でやるわけで、「あえて抑える技術」が求められます。性能向上リフォームに、経験と熟練の技術を持つ人が求められる理由はここにあるのです。

もう一つ、中性能は確認申請(必要な場合)や補助金申請、税控除のための申請にはネックになることがあります。例えば耐震補強工事を行った場合、これらの申請には、耐震診断結果や耐震基準適合証明書などが必要になります。この時、中性能という作り方が画一的な申請基準に満たず、窓口で申請却下となる可能性があります。窓口担当者が構造のことに詳しく、合理的な判断やチェックができれば良いのですが、あまり期待はできません。省エネも同様で、数値設定型性能の場合は、よくよく気を付ける必要があります。

バリアフリー補助金はその点、仕様が形となって見えるので、申請は比較的しやすいです。

不動産価値の評価をする人たちにとっても中性能はやっかいなはずです。(高)性能が確保されていて始めて価値がある、という視点からは、中性能は中途半端な未完成状態でしかありません。

いずれにしても、こうしたソフト面の綿密な連動はまだ現場に追いついていない印象があり、今後の対応が待たれるところです。

 

と、こうしてズラズラ述べてきても多分皆さんはまだピンとこないでしょうから、実例をひとつ。

私はここ毎年、中性能の良さが存分に発揮された家を拝見し続ける機会がありました。特に昨夏拝見した60代のご夫婦の家は印象的でした。

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旧耐震の主屋と新耐震基準後に増築された建物に挟まれたLDK(旧耐震かつ新耐震)部分をリフォームした家です。例のごとく、まともな元図面と予算はなく、ほとんど手探りの状態で設計、施工が行われました。こうして書くだけでもまともな性能向上は無理でしょ、と思ったのですが、中に入ってみると、その空気感や湿度感の心地好いコントラスト、構造的に無理をさせない改修の仕方を見て、これは、中性能でなくては実現できない新しいデザインだと心から実感しました。高齢の方ですからバリアフリーにも配慮されています。限られたエリアだけ、しかも教科書的には全くアウトな納め方…でしたが、どういう訳か全く気にせずに歩き回ることができました。足元が気にならないから疲れない。疲れないから落ち着きと安心感が自然と体にしみ込んでいく、という感じです。

そして何よりも素晴らしかったのは、そうした性能向上の工夫の数々が、目に見える形や空間に美しく昇華されていたことです。各部の統一されていない構造体に合わせて建具をひとつひとつ丁寧にデザインし、必要となる新たな構造材は、空間にメリハリをつけるアクセントにもなっていました。新たに開けられた大きな窓から入る風景と光、風がこの小さな空間をこの上なく快適で愛おしい空間に変貌させていました。家具や椅子については設計者はノータッチで、施主が独自に製作発注したものです。この空間に見事にフィットしており、設計者の意図へ自然と誘導されたような印象でした

工事エリアと工事費、期間が限られているにもかかわらず、環境配慮そのものが形になったような家です。これと同じ物を新築で作ろうとすれば、一体どれだけの(人的エネルギーも含め)エネルギーが掛かるのか、想像がつきません。設計者の力量によるものですが、私よりかなり若い彼は、こうさらりと言ってのけました。「行き当たりばったりです。ただ設計事務所は考える量が違うということは示したかった」(かっこいい!)。

 

今日の結論:

高性能を追い続けるのも大事ですが、逆に環境に負荷をかけてしまうこともあります。中性能は環境に対し、「ほどほどで抑える」という今までにない高度な概念であり、しかも日本独自の風土の中で根付きやすい考え方だと私は強く思います。建物に100%の高性能を求め続ける姿勢から一時脱却し、ほどほどの不便とほどほどの性能不足を受け入れ、そのマイナス面を受け入れてもあまりあるプラス(精神的な豊かさ?)が手に入るならば、今後の日本の高齢社会、環境配慮型社会におけるひとつの豊かな選択枝となるはずです。そう思いませんか、皆さん?

 

は〜、エネルギー切れ。各性能向上リフォームでもいろんな心構えはあるのですが、これに付いてはいずれ機会を見て。

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