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コラム【始まりのミャンマーに見る住宅市場現況】

不動産鑑定士 磯部裕幸, CRE, FRICS
日本ヴァリュアーズ株式会社 会長

ミャンマーという国に惚れ込んでしまい、評価を専業とする拠点を現地に開いてちょうど2年経った。この国には第三者意見としての鑑定評価を意思決定の指針にしたり利害調整のツールに使ったりというカルチャーは基本存在せず、従ってビジネスとしては超スロー・スタートということなのだが、希に仕事の依頼があると、土地取引のデータベースが存在しない中で取引事例を一から収集する必要があり、40年以上前の日本を思い出しながら「地元精通者や業者さんヒアリング」を徹底して行わないと始まらず、多くのことを改めて学び直すいい機会になっている。現地で問い合わせを時々頂くのは、外資系金融機関が地元企業に融資する場合や、進出している外資系企業が本国での意思決定プロセスや会計制度上で外部オピニオンを必要とするケースなどだ。開発案件は不動産開発系とインフラ施設開発系が中心で、インフラ系はヤンゴンから遠く離れた遠隔地に立地していることが多く、業務はすべての意味で非常にチャレンジングとなる。

経済成長は、劇的な政権交代のあった2016年には前年から1%弱落ち6.12%となったが、2017年には7.23%と回復を見せ、地元商工会議所では18年の成長目標として8%超を掲げているほどだ。世界から注視されているラカイン州のベンガル人大量難民問題という深刻な国際的懸念材料があるとはいえ、順調な成長軌道にあると言えるだろう。一方不動産価格は、2011年以降続いた高騰からの反動がここ2年ほど続いていると同時に、開発ラッシュによる供給過剰感から売買市場に関しては依然として価格調整過程にあるようだ。ただし、底堅い需要をベースに賃貸市場はある程度ボトムを脱したと言われている。

そうした中、庶民の暮らしは明るさを増してきているように感じる。首都ヤンゴンでは、いわゆるアッパーミドルクラスなどによる最新設備の整った分譲住宅に対する旺盛な需要を背景に新しい動きも見られる。4月始めに地元民間金融機関がホテルで開催した「住宅ローン開始」イベントを回ってみた。マンション・戸建住宅開発会社が40社以上出展し、ちょうど日曜の午後だったこともあり、会場はごった返していた。主催銀行の担当者を交えての商談コーナーも順番待ちが出るほどの盛況ぶりだった。頭金最低30%、金利13% (固定)で最長15年という住宅ローンは、民間銀行として初の長期ローン商品(我々の常識では非常に短いのだが)とのことだった。

日本円で500万円程度の庶民向けと億単位の高額商品が一緒に展示されているのは、いかにも途上国ならではだろうか。庶民と富裕層という異なるセグメントが、同じ会場で同時に夢を買っている訳なのだ。中古住宅購入におけるローン商品は勿論これからだが、その際には、価格の妥当性検証手段や建物の瑕疵保証、中古住宅向けローン商品の開発など、先進国と同じような各種制度が導入されているのだろうか。国民の平均年齢は27.9才(2015年-国連)と若い。彼らが一次取得時期を迎える頃、市場はどのようなメニューを用意しているのか大いに楽しみである。

 

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