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コラム「私と廃墟」

廃墟が好きです。意図的に訪れたことはないのですが、前号の灯台と同じくふと思い出しては、写真集を眺めたりしております。かつては人が其処で暮らし、壁には誰かの声が反響していた空間。けれどもある日を境にぱったりと人に使われなくなってしまった建物。時代に取り残されたかのようなその姿は、どこかしら郷愁の念を掻き立てるものがあります。

しかしながら、このような趣向で廃墟を捉えるのは所詮廃墟が身近ではない者の心境であり、その周辺に暮らす人々にとって、廃墟は頭を抱える問題です。管理されない建物は腐食等が進み、崩落の危険性が年々高まります。それだけでなく、廃墟と言えば多くの落書きというイメージの通り、人の目がない空間にはどうしても治安悪化の懸念が生じます。

大規模建築物の廃墟化はかねてからの社会問題であり、特に、別荘マンションやホテル等が多く立地する観光地を中心に、その課題は顕在化しています。バブル期まで団体旅行等で賑わった旅館やホテルは、時世の変遷とともに廃れ、今現在全国で廃墟化している宿泊施設は800軒以上とも言われています。これらは規模が大きいうえにアスベストを含有している可能性も高く、解体費用が億単位となることも珍しくありません。金銭面での負担増を理由に行政の介入が困難となっているのが現状ですが、昨今騒がれている空き家問題の延長線上にあるこの問題には、法の整備等、抜本的なレベルでの取り組みが必要だと思います。

以前とある温泉地を訪れた際、誤って閉園した植物園に迷い込んでしまったことがありました。広々とした敷地には自分ら以外に誰もおらず、時間の流れから切り取られたみたいにどこまでも静かな空間が広がっていました。人知れず育っている植物と、色褪せたベンチ。世界の終わりみたいな光景が、いつまで経っても忘れられません。(祐紀)

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