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シニアハウスブログ 第12回「 『地方消滅』とその意味するもの 」

日本ヴァリュアーズ名古屋本社の松原です。

今回は高齢者施設とも関係する「地方問題」、ひいては人口減少問題について書いてみたいと思います。

2014年は、日本創世会議・人口減少問題検討分科会の報告「成長を続ける21世紀のために「ストップ少子化・地方元気戦略」」(通称「増田レポート」)が発表され、この内容はその後『地方消滅』(中公新書)として発刊され、大きな話題となりました。

新書化される前に掲載された『中央公論』では、表紙に大きく「消滅する市町村523全リスト」、「すべての町は救えない」との見出しが表紙に大きく載り、また新書版も帯に「896の市町村が消える前に何をすべきか」と書かれ(新書版はその後、装丁が通常の中公新書とは全く印象が異なるものに変更されている。書店でもかなり目立つ装丁になっている)、かなりセンセーショナルでした。また、この報告が、改革派知事として有名で、総務大臣を務めたこともある増田寛也氏が座長を務める団体によるものであり、新書版では藻谷浩介氏や小泉進次郞氏が、増田氏と対談していることも注目を集めることになったと思われます。

既にかなり売れていると思われますので、内容についてはご存知の方も多いと思いますが、少子・高齢化に伴って、既に始まっている人口の減少について、「若年女性人口」に着目し、2010年~2040年にこの「若年女性人口」が50%以下に減少する市区町村を「消滅可能性都市」と規定し、さらにこのうち523自治体は、2040年に人口が1万人を割り込み、「このままでは消滅可能性が高い」としています。この523自治体とは、全体の29.1%に相当するとのことです。

この『地方消滅』では、上記の内容を導入部として、この人口急減社会に対する対策として、東京への一極集中に歯止めをかけることや、少子化対策、地方が取り組むべきことなどを提言しています。

 

この書が大きな話題になって以降、これに異を唱える意見も出てきています。月刊誌等にも、この「増田レポート」に対する批判が掲載されたようですが、僕が目にしたのは『地方消滅の罠-「増田レポート」と人口減少社会の正体』(山下祐介著、ちくま新書)です。

著者の山下氏が社会学を専攻する研究者(現在、首都大学東京准教授)であり、東北地方をフィールドワークとして、震災復興の現場等を調査・研究している方なので、「増田レポート」もその観点からとらえ直されています。

山下氏自身は人口統計は専門ではないので、多くは触れていませんが、他の論者の指摘を引用して、まずは現状分析の粗さを指摘しています。①地方の若年女性減少について、少子化による人口減の効果を見落としていること、②市区町村ごとの将来人口推計は開発途上で精度は低いとされているにもかかわらず、それをリスト化して公表してしまったこと、③平成の大合併のもたらした人口減少の負の効果を見逃していること、④定住人口のみをもって、地域の維持存続を論じていること、を指摘しています。

しかしこの著書の本論は、「増田レポート」が、日本社会がとるべき方向性についての哲学や思想性に問題があると指摘しています。

つまり、「増田レポート」は、ある種「国家に貢献しない地域は、消滅するのもやむを得ない」という発想が根底にあり、このレポートのキーワードである「選択と集中」には、一定の地域は切り捨てざるを得ないという意味が込められている、というのです。

確かに、山下氏が指摘するように「選択と集中」と言われると、何となく自分が選択する側にあるかに錯覚しますが、実際には一住民、一国民には選択できるわけもなく、政府が「上から」線引をすることになります。また「増田レポート」では、地方における人口流出を食い止めるダム役割を「地方中核都市」が担うべきと提言していますが、山下氏は、これは「ミニ東京」づくりであり、「東京一極集中」を人口減少の要因と指摘しておきながら矛盾していると指摘しています。また、「増田レポート」は数字だけを見た提言でしかなく、そこには地域も家族も、企業さえも存在しない、とも指摘しています。

 

山下氏の主張を読んでみて、やや批判に無理がある感もしますし、議論が噛み合ってない気もします。しかし、いずれにせよ「増田レポート」で「やがて消滅する」と宣告された市区町村では、諦めにも似た反応があるようです。確かに、それ程のインパクトはありましたから、これまで地域の復興に尽力されてきた方の中には、挫折感も生んでしまったのかもしれません。

とはいえ、人口減少は着実に進展しており、ますます深刻になってくるので、こうした批判も含めて、「どのような社会にしていくのか」を、従来の経済成長路線なのか、それともそれとは異なる新たな社会のあり方(経済成長を前提としない社会)を模索するのか、広く議論して、方向性を見定めていく必要がある時期であるのは間違いないことです。

 

不動産市場においても、シルバーハウスは、高齢化社会に直結していますが、賃貸マンションや郊外型商業施設などについても、少子・高齢化、人口減少の影響は着実に現れてきます。最近、話題の空家問題も、大きくは人口減少の結果とも言えるでしょう。

こうした現実を、各分野でどう対応していくのかは、やはり、社会全体のあり方の方向性抜きには論じられない問題であり、広範に議論していくことが求められていると思います。

 

山下氏は、本書の中で、「これはちょうど、敗戦の際の撤退軍のしんがりに似ている。軍を退きながらも、しっかりと踏みとどまるところは踏みとどまり、傷口を最小限に防ぎ、全体の潰走をおさえる-そこにはしっかりとした戦略が必要であり、退くだけでなく、守るべき場所やその意義が全軍で十分に共有されていなければならない。自分がそこにいる意味がわかってこそ、兵隊は苦しさに耐え、逃げずに踏みとどまるのである。でなければ、そこが撤退の場所だとわかった途端に潰走の火種は次から次へと全軍に移り、堤防に決壊が生じるように、すべては一気に崩れていくだろう。」と書いています。こうならないように、どうすべきかを真剣に考えないといけません。

 

 


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