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不動産資格の国際化、多様化(後篇)

 

不動産資格の国際化、多様化 

Change of Real Estate Professionals’ role in current global economy

 

磯部裕幸

日本ヴァリュアーズ株式会社 代表取締役

不動産鑑定士, CRE, FRICS

 

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4 RICS-The Royal Institution of Chartered Surveyors(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会-http://www.rics.org/)について 

 

 RICS は、不動産を中心としたあらゆる資産に関する専門家によって構成される組織であり、1868年創設という古い歴史を誇る。1881年に英国王からroyal charter(公的機関)として認められることになり、以降RICS会員を”chartered surveyor”と称することになった。その後長く英国中心の国内組織だったが、1990年代以降、急速にグローバル化が進み、世界各地の拠点で活動が展開され現在に至っている。

 会員数は、世界146ヵ国で約15万人。内正会員が約10万人超、準会員・会員予備軍としての学生などが約5万人といわれている。運営は、本部ロンドンの下に7ヶ所リージョナル・オフィスがあり、そこで国別の支部を管理し、それら支部は、国内主要都市にローカル事務所を持つ場合、その運営を所轄するというツリー構造になっている。

各リージョナル・オフィスの会員数は、およそ以下のような割合である。2000年以降は毎年約2000名以上会員が増加しているとのことだが、その90%以上は英国以外、しかもその中でのアジアの占める割合はもっとも高い。

 支部の存在する国や地域は、55カ所におよび、イギリスでは4つの地域支部の下に数多くのローカル事務所があるが、アメリカ合衆国、カナダ、中国などでも、複数の都市にローカル事務所が開設され、これらの国では会員数増加と共にこの動きが徐々に加速しつつある。一方、アジア各国のおけるRICS正規会員数は以下の通りである。英国との関係で香港の会員数が圧倒的に 多いことは当然だろう。シンガポールやマレーシアのも、英語圏という意味でRICSとの関係は長い。そうした中、中国の台頭はやはり特筆すべきである。2004年、上海に支部が始めて設立されてから7年でアジア・リージョン第二の会員数にまで成長してきた。

アジアの正規会員数.png

 これら以外の多くのアジアの国にもRICS会員は数多く存在している。BangladeshBhutanBurma/MyanmarCambodiaKiribatiLaos PDRMacaoNepalMaldivesTimor Eastなどである。

記述の通り、RICSは不動産を中心としたあらゆる資産に関する専門家によって構成されている。少し分かりにくいのは、いわゆる公的な意味での専門「資格」をRICSが提供している訳ではないという点である。

私の分野である不動産鑑定を例にとると分かりやすいかもしれない。日本では報酬を得て不動産鑑定評価を行うためには不動産鑑定士の資格を有していることが法的な大前提である。不動産業もしかりである。宅建主任者という資格保有も、やはり法的に不可欠である。しかし、これらサービスの提供を担保する「資格」がすべての国にあるとは限らない。英国はまさにその例である。不動産鑑定士も宅建主任者も国家資格としては存在していない。RICSにおけるChartered Surveyorの称号は、その意味では実体としては資格に替わる重みを持っており、それだけにRICS自体の責任も重いと言える。いずれにしても、RICS会員であることが専門職業家としての安心感やステータスとして社会に定着しているわけであり、そのことこそが、近年のグローバルな展開を可能にしている最大の理由なのだろう。資格の既に存在している国においてさえ急速な伸びを示しているのは、国内資格に加えてRICS会員になることに 高いインセンティブが働いているからである。

 

 さて、RICSには、3つのジャンル、17種類のプロフェッショナル・グループがある。chartered surveyorといっても、これらすべての分野はカバーできないわけであり、会員はsurveyorとして自分の専門グループに所属することになる。

 

 

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   ここで明らかなように、一つ一つの専門分野の狭いサービスだけを提供すれば足りるということではなく、各分野を取り巻く周辺領域すべてをカバーできることがsurveyorに対して想定されているということなのである。ちなみに、専門グループごとに異なる称号が発行されている(固有の称号を持たないグループもあるが)Arts & Antiquesは「Chartered Arts and Antiques Surveyor」。Environmentは「Environment Chartered Surveyor」。Building controlは「Chartered Building Control Surveyor」という具合である。

 RICSのことを、資産のすべてのフェーズにコミットできるプロフェッショナルの集合体だと称することがあるが、分野で言えば、土木・建築・都市計画・機械・農業・林業・工鉱業・地質学・地理学などから、法律・経済・文化・歴史・経営・ファイナンス・マーケティングなどまでの広い領域にまたがっているし、職種ないし専門領域を日本流にいえば、建築士・技術士・インテリアプランナー・建築積算資格者・建築/土木施工管理技士・測量士・プロジェクトマネージャー・コンストラクションマネージャー・ファシリティーマネージャーなどから、弁護士・司法書士・公認会計士・税理士・不動産鑑定士・宅地建物取引主任者・土地家屋調査士・中小企業診断士・不動産カウンセラー、ファイナンシャルアドバイザー・ファイナンシャルプランナー・証券化マスター・証券アナリストなどが、すべてRICSという組織に属しているということになる。ここまで広範囲な領域の専門家によって構成されている団体は、恐らく世界でもRICSだけではないだろうか。

 このように、RICSが認定するChartered Surveyorは、法律や制度に守られた資格ではない。従って、会員になったからといって具体的な保証が得られるわけではないし、Chartered Surveyorでなければならないと、法律で規定されているということもない。それでは、なぜRICSがこのように世界中で大きな広がりを見せてきているのだろうか。

世界中で複合的に意思決定をする場合に企業が様々な地域で専門家にアドバイスを依頼するとしよう。その場合、個々のコンサルタントに対して同じ基準に基づいた同一クォリティーのパフォーマンスを期待するというのは、クライアントとして当然であろう。

日本におけるコンサルティング分野でもっとも国際化が早く進んだのは建築・土木分野だろうが、例えば海外プロジェクトにおいて依頼者・施主側の責任者がRICSの会員であることは決して希ではなく、こちらもメンバーであればコミュニケーション自体RICSという共通基盤に立って進めることが可能になるのである。

 

5 まとめ

 

 不動産資格の国際化、多様化について、評価分野を例にして新しいニーズの所在と米英の資格動向を述べたが、ここで示唆されているのは、不動産に限らず「分野の固有性」の垣根が大きく取り払われつつあるということだと言えよう。

資金と人の流れが国境という垣根を取り払ってしまったことにより、グローバルな基準、グローバルに適合する専門性・資格の必要性が急速に高まってきていること。不動産と金融の融合により、それぞれの専門性を同時に持っているプロフェッショナルが必要になってきていること。RICS17分野それぞれにみられるように、一つの分野の中にも多くの業務領域が含まれており、専門家に対して多くの領域に対する実務能力が要求されてきていること。さらに専門家団体には、一つの傘としての「資産のすべてのフェーズにコミットできるプロフェッショナルの集合体」のような、分野間障壁のない統合性・総合性が必要とされてきていること、などである。

その意味では、日本においても、海外の専門家機関との間での資格や業務の相互交流が今後いろいろな分野で進んでいくことを大いに期待していきたい。

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