
図書館の存在意義
書店の減少が深刻な問題となっておりますが、その一方で、公共図書館の数は増えています。直近2024年のデータにおいては、前年比9館増加の3,319館となりました。利用者数(登録者数)も伸びており、設置自治体人口における利用者数の割合は、2000年の時点で16.7%だったものが、2022年では22.5%と、2割強まで増加しています。「活字離れ」が進んでいると言われている昨今、何故図書館は減少しないのでしょうか。
図書館の定義は「人間の知的生産物である記録された知識や情報を収集・組織・保存し、人々の要求に応じて提供することを目的とする社会的機関」とされています。そして、多くの図書館には、図書館の自由に関する宣言として、「図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設提供することを、もっとも重要な任務とする」という文言が掲げられています。図書館と言えば、本を貸し出す静かな空間程度の安易な認識でありましたが、その本質的な役割は、「知る権利」の保障であると言えそうです。
知的インフラである図書館を維持するために、様々な工夫がなされています。昨今はより一層の集客を目指し、多面的な機能を有する複合型の図書館が多く、役所や公民館、コミュニティセンター等の公的施設のほか、飲食店や美術館、オフィス等が併設されている施設もあります。立地についても、駅直結や百貨店の中に入居する等、より一層立ち寄りやすい場所が選定される傾向が見られます。また、建物のスタイリッシュさから観光地化している図書館も少なくありません。運営方法についても当然進化しており、オンラインでの貸出予約はもちろんのこと、地域によっては自宅まで本を宅配してくれるそうです。
「知る権利」を守ってくれている公共図書館、持続可能な施設であって欲しいです。(祐紀)
スパリゾートハワイアンズの思い出
福島県いわき市に存する大規模温泉リゾート施設「スパリゾートハワイアンズ」の運営会社・常磐興産が、米投資ファンドの傘下に入ることになりました。地域経済を牽引する象徴的な施設への外資参入を受け、地元では、驚き、不安、期待の声が交錯しているそうです。
常磐興産は、渋沢栄一らが設立した磐城炭礦に端を発します。いわき市常磐地区はかつて石炭の町でしたが、エネルギーの主流が石油へシフトしたことにより石炭産業が斜陽となり、企業の存続と地域経済再生の為に新業種への参入が検討された際、「坑内から湧出する温泉の地熱と豊富な湯量を利用すれば、東北の地でも一年中温暖な空間が創出できる」として、スパリゾートハワイアンズの前身である常磐ハワイアンセンターが誕生したそうです。人気のショーを演じるフラガールは映画化され、東日本大震災後は復興のシンボルとして多くの人を勇気づけました。しかし、1966年の開業から半世紀以上が経過し、施設の老朽化が相当に進んでいます。新型コロナウイルス禍中の経営悪化もあり、十分な設備投資が行える状態にないことから、今回、不動産事業に強みがある外資系ファンドの買収提案を受け入れたそうです。
スパリゾートハワイアンズに限らず、近年、外資による象徴的なリゾート施設の買収が相次いでいます。宮崎県のシーガイア、北海道の星野リゾートトマム、長崎県のハウステンボス等、いずれも施設の老朽化・設備投資の困難等を背景に、外資系企業の傘下となっています。大型リゾート施設を末永く維持する為には、やはり、老朽化への適切な対応が喫緊の課題です。
母の実家が福島県なので、幼い頃は、毎年夏休みになるとハワイアンズに連れて行ってもらうのがとても楽しみでした。ガラス越しに魚が泳いでいる温泉や、大型の流れるプール等、子供心には別世界でした。思い出が沢山詰まった施設、後世まで残って欲しいです。(祐紀)
MIPIMアジアサミットに参加致しました
2024年12月3日、4日に香港で開催されたMIPIMアジアサミットに、当社代表の小室と、中澤、山中の3名で参加して参りました。今回のMIPIMには、アジアを拠点とした有名企業やグローバルファームのCEO、ディレクター等を始め、各国の優秀な不動産プレイヤーが参加しており、トップマネジメントの立場から見た不動産市況の知見を深め、また各国のプレイヤーとの情報交換の機会を設けることができました。
MIPIMのメイン会場では、登壇者によるディスカッションと、参加者間のネットワーキングが交互に行われました。2日に及ぶセッションの中では、デジタル化、脱炭素の潮流、一帯一路構想、低空経済等、不動産業界の最新トレンドを捉えたディスカッションに加え、投資先として優良なアセットタイプ、国、資金調達の方法まで幅広い議論が展開されました。登壇者の一人が紹介していた、カーボンニュートラルを実現するための建築技術や、エネルギー効率の高いスマートビルディングの事例は、現実的かつ先進的な取り組みとして非常に興味深いものでした。また、デジタル化に関しては、不動産取引におけるブロックチェーン技術の活用や、AIを活用した土地や建物の評価プロセスの効率化が今後のスタンダードになる可能性について議論されており、そのインパクトの大きさに驚かされました。さらに「日本」については、魅力的な市場として取り上げられる場面が何度かあり、低金利環境、正のイールドギャップ、安定的な経済等のキーワードが多く語られていました。一方、ネットワーキングの場面では、新たな鑑定評価の可能性も感じました。とある投資家との会話では、よりスピーディーな投資リターンを目論んだ「オペレーター」への投資が話題に上がり、例えばホテルを「不動産」としてではなく、「経営プラットフォーム」として評価する需要が今後期待され、これに不動産鑑定士がいかに対応し得るかが試されていると実感しました。また、昨今活況なAI需要に伴い「データセンター」の評価について聞かれる場面が多々あり、まだ歴史の浅いこのセクターについて、鑑定業界内でもナレッジの集約と評価手法の確立が必要であると感じました。
小売業を中心に香港経済の状況は厳しく、特に外国人や香港市民の流出による実需の低下が顕著です。また、中国本土の不動産市場の不況も影響し、基幹産業である不動産開発は深刻な低迷に直面しています。その一方で、香港のプロフェッショナル・ハブとしての役割は依然として堅調であり、国際的な投資機会の拡大に寄与できる鑑定士の需要は、日本をはじめとする世界各国で重要性を増していると実感した香港出張でした。(山中)
第34回 VPC アジア太平洋地域会議 (インドネシア、バリ島)へ参加致しました
2024年10月17、18日に、インドネシア・バリで開催されたVPCアジア太平洋地域会議にオブザーバーとして招待いただきました。
当社の国内外での取り組みを紹介し、グローバルなビジョンについて発表する貴重な機会をいただきました。
また、参加者との交流や意見交換を通じて、グローバル、ローカルな諸問題に対しての各地域の著名な鑑定士による深い洞察を得る素晴らしい経験となりました。
今後も、日本発の不動産評価サービスを提供しながら、現地の専門家との協力関係をさらに深めてまいります。
(ティンガー)
当社のカンボジア現地法人であるJapan Valuers (Cambodia) Co., Ltd.において、2024年上期のホテルマーケット調査を実施いたしました
当社のカンボジア現地法人であるJapan Valuers (Cambodia) Co., Ltd.において、2024年上期のホテルマーケット調査を実施いたしました。首都プノンペン、シェムリアップ、シアヌークビルの3都市において、合計で300棟近いホテルを対象とした客室稼働率調査、ADR調査を行っています。今回は特別に、当レポートの全文を無料にて公開・ご提供させて頂きますので、是非ご一読ください。
全体として、カンボジアのホテル市場は、国際的なホテルブランドからの関心が高まり、質の高い宿泊施設への需要が高まっていることから、継続的な成長が見込まれています。また、カンボジアが観光産業の発展とインフラ整備を続けていることから、ホテル市場は今後さらに投資を呼び込み、さらなる拡大・発展の機会を提供するものと考えられます。
一方で、本調査結果を見ると、客室平均稼働率は首都プノンペンでも未だ30%台、シェムリアップで20%を下回る水準であるなど、往時の賑わいとはほど遠い状況にあり、ホテルオーナー、オペレーターともに相当厳しい状況にあります。それにもかかわらず、ホテル物件のファイアセールがあまり聞こえてこないのは、築浅の物件や立地に優れた物件では、投資適格性が認められるにも関わらず、市場が十分に機能しておらず、興味を示す投資家や金融機関とのマッチングの機会が少ないこと、将来キャッシュフローの改善が見込まれるにもかかわらず、それを表現する収益評価の専門家が投資市場に根付いていないこと、等が理由として挙げられます。
本レポートにおいて調査対象としたホテルサンプル群の詳細なデータ、コンプセット等のご提供に興味がございましたら、有料とはなりますがご提供が可能です。また、カンボジアにおける具体的なホテル購入のご相談やご紹介、査定、デューデリジェンス、価格評価のご依頼がございましたら、現地法人と協働の上、お客様のニーズに最も寄り添えるかたちでご提案させて頂きますので、どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。
Cambodia_Hotel Market Report H1_2024
花火大会をやめないで
手のひらくらいのサイズですが、自宅の窓から、市が開催する花火大会の花火が観えます。そのことに気づいた時はとても嬉しく、以来、開催日が決定するのを毎年心待ちにしています。しかし、夏の風物詩である花火大会ですが、年々全国的に、中止または規模の縮小が相次いでいるようです。2020年~2022年はコロナ禍によりその多くが中止となったことは記憶に新しいですが、新型コロナウイルスが5類に移行して一年以上が経った今年も、中止のまま再開されない花火大会が多く、行楽情報サイトによると、2024年は全国22会場で中止が決まっているそうです。花火大会は、地域を活性化させる貴重な行事です。多くの地域住民が楽しみにしているイベントの消失は、地域の魅力低下へと繋がりかねません。
花火大会が減少している一番の理由は、なんといっても資金不足によるものです。自治体の財政難による補助金の減額や、協賛企業の減少により予算が減る一方で、物価高による材料費の増大や、人手不足による警備費の高騰により、開催費用は増加の一途を辿っています。財源の確保として有料席が考えられますが、有料席を増やしすぎると、無料で見られる場所が減ってしまいます。花火大会は主に地域住民のために開催されており、財源に含まれる自治体の予算は、税金によるものです。故に、むやみに有料席を増やすことが必ずしも解決策とはなりません。花火大会存続の為には、新たな財源の捻出が喫緊の課題ですが、近年は、クラウドファンディングやふるさと納税の仕組みを利用して、開催費用の確保を試みる自治体も多く、結果、資金調達に成功している例が多々見られます。毎年開催される花火大会が、当たり前ではなく、運営サイドの様々な苦労の賜物だと思うと、頭が下がります。(祐紀)
銭湯のある街
銭湯の数は、1968年に1万7,999軒に達して以降、一般家庭における内風呂の普及を背景に減少し続け、2024年4月現在、ピーク時の10分の1以下である1,653軒となっています。
銭湯は、その公共性の高さから「公衆浴場法」によって管理されています。入浴料は「物価統制令」の対象となっており、各都道府県知事によって上限が決められています。従って、「その他の公衆浴場」に分類されるスーパー銭湯やサウナ等と違い、料金を自由に設定することができません。反面、「公衆浴場確保法」により、水道料金の減免や固定資産税の軽減措置等、行政からの様々な補助が出ています。それでも、利用者数の減少や燃料費の高騰、経営者の高齢化、施設及び設備の老朽化等の要因により、廃業に歯止めが利かない状況にあります。
銭湯は、地域における保険衛生水準の向上という役割のみならず、地域コミュニティの核としての側面も併せ持ちます。住民同士がリラックスしながら気軽な会話を行える貴重な場所であり、更には今後高齢化社会を迎え、一人暮らしの高齢者の増加が予想される中、高齢者の見守りの場としての機能も期待できます。銭湯は日本の伝統文化であるとともに、地域の資源です。今後も存続させる為には、政策等の見直しが必要なのかもしれません。
筆者にとって銭湯といえば、真っ先に祖父を思い出します。祖父は飯坂温泉がある福島県飯坂町で暮らしておりましたが、自宅にお風呂があるにもかかわらず、生涯ほぼ毎日銭湯通いでした。筆者も幼少期に何度か連れられて行ったのですが、飯坂名物の熱い湯には容易には入れませんでした。その地域で暮らす人々の生活に根差した銭湯のある風景が、街の個性や住人の思い出を守るためにも、末長く受け継がれていくことを願います。(祐紀)
進化する都市公園
都市公園の数は年々増加傾向にあり、2022年度末の調査においては、全国に約11.5万ヵ所、1人当たり面積(全国平均)は約10.8㎡/人でした。制度が誕生してから昨年で150年を迎えた都市公園ですが、近年、その在り方が変わってきているようです。
2014年に設置された「新たな時代の都市マネジメントに対応した都市公園等のあり方検討会」において、都市公園は、①ストック効果をより高める、②民との連携を加速する、③都市公園を一層柔軟に使いこなす、の三つの観点を重視しながら、「新たなステージ」に移行すべきとの方向性がとりまとめられました。更に、2017 年の都市公園法改正により、パークPFI(公募設置管理制度)や協議会制度等、公園に関する新たな制度が創設されました。パークPFI制度は、公園の整備を行う民間の事業者を公募し選定する制度です。公園管理者のメリットとしては、民間資金を活用することで、公園整備、管理にかかる財政負担が軽減され、また、民間のノウハウを取り入れた整備、管理により、公園のサービスレベルが向上し、地域の活性が期待できます。民間事業者は、都市公園内に飲食店や売店等の収益施設を設置することにより、長期的な経営が可能となり、また緑豊かな空間を活用して収益施設に合った広場等を一体的に整備することにより、収益性の向上が見込めます。パークPFIによる公園整備は相次いでおり、全国の都市公園内には、ホテルやキャンプ場、温泉施設等、多種多様な施設が作られています。かの日比谷公園大音楽堂、通称「野音」も、パークPFI方式により建替えを予定しておりましたが、残念ながら公募への応募がなかったようで、東京都の整備となりました。都心の一等地であり、知名度も高い施設に応募がなかったというのは、とても意外です。(祐紀)
がんばれ北陸新幹線
2024年3月16日、北陸新幹線が石川県の金沢駅から福井県の敦賀駅まで延伸開業しました。これまで鉄道で東京-福井間を移動するには、金沢経由で最速3時間27分を要しましたが、延伸により36分短縮され、最速2時間51分となりました。
北陸新幹線の計画は、東京と大阪とを結ぶ本州の大動脈である東海道新幹線が、災害等で不通になった際のリスクをヘッジするために、東海道新幹線を代替する新幹線として1970年代から議論されてきました。1998年に開催された長野オリンピックに合わせて1997年10月に高崎駅-長野駅間が初めて開業し、次いでその約18年後、記憶に新しい2015年3月に長野駅-金沢駅間が、そしてその9年後である今年、金沢-敦賀間が開業となりました。
さて、次はゴールである新大阪駅までを繋ぐ全線開業に焦点が移りますが、敦賀駅以南のルートは最終的に3案に絞られてはいるものの、未だ着工の見通しすらついていない状態のようです。しかしながら、数々の困難を少しずつ乗り越え、苦節50年以上を経て全体の8割まで完成してきたので、きっといつか全線開業すると信じつつ、気長に待ちたいと思っております。
この度の開業に伴い、福井駅周辺では、再開発ビルである「FUKUMACHI BLOCK(フクマチブロック)」の一部施設及び、駅構内の商業施設「くるふ福井駅」が延伸当日に揃ってオープンしました。また、福井県初の外資系ホテルである「コートヤード・バイ・マリオット」もJR福井駅前で開業する等、地域振興の機運が高まっております。長野駅-金沢駅間が延伸開業した際には、金沢が随分近く感じられ、実際に金沢へ行く機会も増えました。福井といえば、あわら温泉、恐竜博物館、東尋坊等々。いつかふらっと訪れてみたいです。 (祐紀)
百貨店の存在意義
自宅最寄りの百貨店は、全国区ではないローカルな百貨店でした。家族で買い物に行った際、レストランフロアの瀟洒な洋食店で食事をしたのは、幼少期の良き思い出の一つです。その百貨店が数年前に閉店してしまった際には、言い知れない寂寥感を覚えました。
かつて百貨店は、全国の県庁所在地は言うまでもなく、人口数十万人程度の都市にも立地していました。百貨店にはそこでしか買えない商品があり、ちょっと高価なレストランがあり、特別な日に訪れるべき非日常感がありました。しかし、百貨店と同程度の商品を販売する郊外型ショッピングモールが増加し、インターネットでの通販が台頭した昨今、特に人口減が続く地方都市においては、閉店が相次いでいます。コロナ禍の影響もあり、2020年以降30店舗以上が閉店し、これにより、山形県、徳島県、島根県においては、百貨店がゼロになってしまいました。一方、大都市の一部百貨店では、近年売上高が過去最高となっています。これは、富裕層向けビジネスの強化や、不動産業態へのシフトなど、消費環境の変化に合わせたモデルチェンジが功奏した結果だそうです。言い換えれば、地方百貨店は、急速な環境変化に対応しきれず、ビジネスモデルが陳腐化してしまっているという可能性が指摘されます。
苦境が強いられている百貨店ですが、フロアの一部を都市型水族館にしたり、図書館や公共施設にしたり、生き残りをかけて改革を進めている店舗も多々あります。百貨店の多くは街の一等地に立地し、閉店すれば、中心街の空洞化を招きかねません。百貨店は街の顔であり、そこでの思い出が人生の一部となっている方も少なくはないと思います。ただの商業施設ではなく、地域ぐるみで再生の道を探るべき存在なのではないでしょうか。(祐紀)