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ASEAN二国に見る勢いの違いと地政学リスク

7月前半、ヤンゴンンとプノンペンを周ってきた。ミャンマーは1年ぶり、カンボジアは4年ぶりだ。コロナ以前はいずれも成田から直行便があり近かったが、今は休止中で乗り換えが必要になり、心理的距離は以前より遠くなってしまった。今回私はバンコクを起点にして旅程を組んだ。復路のプノンペン→バンコク便スケジュールが直前で急に変更となり、バンコクで東京行きフライトまで9時間も待たされることになってしまったのだが、そのおかげでダウンタウンを久しぶりに歩く時間が取れたのはよかった。

ところで、リーマンショックの後、部品メーカーのタイ現地法人社長をしていた友人を夏休みに訪ねたことがある。その前のバンコク訪問は80年代だったが、街の変容ぶりには驚かされた。建ち並ぶ高層ビルやショッピングセンターが、従来からある道路脇の屋台にうまく溶け込んでいる風景はアジア独特だし、友人の暮らす高層サービス・アパートのクオリティはほぼ先進国並みだった。しかし、部屋のベランダから見える、工事が中断して野晒し状態の建築プロジェクトの多さには愕然とした。見るからに中断後間もないものもあれば長く雨曝しになっていると思しきものもあった。フィージビリティ・スタディなどしなかったのか、資金調達が突然途絶えたのか。それは、途上国にありがちな根拠希薄な右肩上がり信仰のつけとしての大きな代償だったのだろう。今回少し歩いて、そうした野晒し建築物が確実に少なくなっていると感じた。大げさだが、多少政情が不安であっても、国のポジションがワンランク上がったことで経済的には安定しているのだろうと。

一方ヤンゴンでは、工事が中断した野晒しスケルトン建物や、着工の目途が立っていないようなプロジェクトの告知看板が以前にも増して目立った。21年2 月、政情が一気に不安定となる以前から、そうした工事中断や未着工はよく見られたのだが、国内外から注目されていた外資系著名ホテルの進出を含んだ大規模複合再開発プロジェクトも、工事再開の予兆は見られなかった。その一方、将来不安に対するリスク・ヘッジとして、土地購入で資産逃避を図る人々が増加し、主として住宅地域や郊外の土地取引はヒートアップしていると聞いた。商業用不動産市場の閉塞状況とは全く異なる動きだ。

カンボジアは、長期にわたる人民党の一党独裁が「安定的」だということなのか、皮肉にもミャンマーの政情不安定化の後、注目度が高まった気がしている。新規プロジェクトの竣工・オープンが進んでいて、高層ビルもかなり増えた。いくつかの有名な野晒しプロジェクトを除き、見た目確実にその数は少なくなっていた。それどころか、世界がコロナに揺れていた2021年にMarriottやHyattが、そして昨年にはAscottグループが高級アパートメント・ホテルをオープンした。2019年以降の新規ホテルは大小約10に上るとのことだし、今年4月にはAeon Mall 3号店(床面積約18万㎡でASEAN最大)もオープンした。

途上国の成長はFDI(Foreign Direct Investment)に依存することころが大きいが、ASEANの中におけるこのラスト・フロンティア二国の現在の勢いの違いは「地政学リスク」の大小に拠る、と言っても過言ではないのだ。

不動産鑑定士 磯部裕幸, CRE, FRICS

日本ヴァリュアーズ株式会社 相談役

(©不動産経済研究所)