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MIPIM Asia Summit(香港)参加レポート

-MIPIM Asia Summitに見る、不動産評価の前提条件-

2025年12月3日・4日に香港で開催された「MIPIM Asia Summit」に参加しました。

本サミットには、各国の不動産投資家、金融機関、デベロッパーなど、アジア不動産市場を牽引する主要プレーヤーが一堂に会し、最新の市場動向や投資環境について活発な議論が行われました。

 

サミット全体として、アジア主要都市における不動産投資は引き続き堅調である一方、地政学的リスクや金融政策の転換局面を踏まえた慎重なスタンスが強く意識されていました。日本市場については、高成長を狙う市場という位置づけよりも、複数のアセットタイプに支えられた市場の厚みや安定性、相対的に低いリスクプレミアムを背景とした安定的な投資先として語られる場面が目立ち、日本市場への理解が具体的な前提条件に基づいて整理されつつある印象を受けました。

 

AI・データセンターを巡る議論

今回のサミットでは、AIに関するセッションも多く設けられていましたが、全体としては期待先行の段階を経て、現実的な検証フェーズに入っている状況がうかがえました。業務効率化や分析高度化への可能性は広く認識されている一方で、その経済的効果を定量的に示せている事例は限定的であり、AI活用を前提とした不動産開発・運用には、新たな制約条件も意識されつつあります。短期的な効率化ツールというよりは、中長期的に業界構造を変え得る要素として、慎重かつ現実的に捉えられている点が印象的でした。

また、AI需要の拡大を背景としたデータセンターや、オペレーション要素を含むアセットに関する話題も多く、従来型の不動産評価に加え、事業性や将来の収益構造をどのように整理・評価していくかが、今後の鑑定実務における重要なテーマであると認識しています。

 

ESGをどのように評価に織り込むか

ESGに関する議論も引き続き重要なテーマとして扱われていました。ESGへの取り組みが都市や不動産の価値向上に寄与するという認識自体は、市場参加者の間で広く共有されている一方で、それを個別の不動産において、どのように価格形成要因として整理し、評価に反映させるのかについては、必ずしも明確な共通解が確立されているとは言い切れない状況です。環境問題はグローバルな課題であるものの、環境配慮の度合いを賃料水準や利回り、将来CFとどのように結びつけるのか、あるいは独立した価値要素として捉えるのかはなお検討の余地が大きいと感じました。ESGは理念としては定着しつつありますが、鑑定評価の文脈においては、「何をどこまで織り込むのか」を慎重に見極めながら整理していく必要があるテーマであると今回のサミットを通じて改めて認識しました。

 

評価の前提条件

鑑定士の立場から特に印象に残ったのは、投資家が重視する評価の前提条件が、以前にも増して精緻化している点です。単純な利回り水準にとどまらず、アップサイドシナリオの実現可能性、キャッシュフローの持続性、下振れリスクへの耐性、さらには金利変動を織り込んだシナリオ設定など、評価の前提として何を置き、どこまでを織り込むのかが明確に意識されていました。

鑑定評価においても、その前提条件をどのように設定し、どの程度の不確実性を含むのかを説明する役割が、国際的な投資環境の中で一層重要になっていると感じました。

 

セッションでの議論に加え、参加者同士の交流を通じて多様な視点に触れられたことも、今回のサミットの大きな収穫でした。海外マーケットを直接体感することで、日本市場が国際的にどのように見られているのかを、より立体的に捉えることができたと感じています。(黒沼)